セル画の復活のために、
絵具から「色」をつくりだす

KEIKO KAI
甲斐 けいこ
色彩設計 / クリエイター
セル画時代からの「アニメの色の専門家」。「色」の持つ力を引き出す緻密に計算された色彩設計で、作品に豊かな表現力を与える。代表作は、『Golgo13』『FAIRY TALE the first』『Kingdom2』(Collor Design)など。

アニメには色があります。でもそれは、ただ塗られているわけではありません。原作者や監督の求めるイメージを、「アニメーションとしての色付け」で表現するためには、とても緻密な色彩設計が行われているのです。アニメーションでは基本的に1つのパーツにつき4色、子ども作品なら1色と、ベースとして使用する色数が限られています。その条件の中で、いかにイメージ通りに、魅力的な作品となるように、色を組み立てていくか。

そして、背景の世界観や、昼・夜などのシーンごとの時間帯、光に照らされた時の色の変化など、あらゆる要素と調和させながら、数えきれないほどの細かな色味の調整を施す。そうして色彩設計の仕事でキャラクターなどメインとなるものの色が決まったら、次は色指定の担当者がそれ以外のすべてに配色していきます。1話30分のアニメなら、300~450カット。その1カット1カット、そこに登場するすべてのものに対して、「作品観に合わせた色」を提示しています。

この色彩設計・色指定の仕事が、どれほど重要でセンスの問われる職人技であるかは、アニメを見ている方には普段あまり意識されることはないかもしれません。でも、色によって、1本の作品のクオリティが上がるか下がるかが変わってくる。もっと言うならば、作画もいい、演出もいい、監督もいい、そんな作品であっても、「色」で駄作にしてしまうこともできる。アニメはどれか1つだけが良くてもだめで、どれか1つだけが悪くてもだめで、全部トータルしていい仕事がなされないと1つの作品としていいものにはならない。アニメにおける「色」は、その中で縁の下の力持ちとして作品を支えているのです。

セル画からデジタルに移行して、色にも試練が訪れました。長年セル画に携わってきた私が初めてデジタルでの色付けを見た時、「平面的で、見ていて面白くない…」と感じてしまったのです。セル画にあった「あたたかみ」や「やわらかみ」を、デジタルでも表現していけるようにならないといけない。そこに色彩の技量が求められていく。デジタルに比べて圧倒的に色数が少なかったセル画時代、その限られた色の中でより豊かな表現をするための工夫を重ねてきたからこそ、「色」の持つ力を人の手によって引き出し続けていく大切さを実感しました。

セル画の復活プロジェクトにおいても、「色」は大きな鍵を握っています。セルもない。セル用の絵具もない。今さらどうやって?ありえない!と、最初は思いました。だけど、「10色だけ、絵具はあるの。一緒にやってみない?」と佐々木さんから声をかけてもらった時、この10色の絵具と、私たちの経験を組み合わせれば、道は拓けるかもしれないと思ったんです。

そして今、セル画復活のための「絵具づくり」という大仕事に挑んでいます。どの色の絵具を、どの割合で、どんなふうに混ぜ合わせたら、どんな新しい色の絵具ができるか。10歩進んで9歩下がるような、一筋縄ではいかない実験の日々。もう何十年も研究をしているような方の気持ちがちょっとわかってきたような気がします。大変なことはたくさんある。でもそこに新しい発見がある。そして何より、「色」が好きだから。問題はまだまだ山積みだけれど、それもまた楽しみながらセル画のための「色」を追求していきたいと思います。