セル画から、世界がもう一度憧れる
「ジャポニズム」を

GOZ
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アニメーター
ガンダムやULTRAMANアニメを手掛けた巨匠アニメーター・板野一郎を師とし、日本の大手制作スタジオで数々のメジャーアニメや映画の作画、作画監督を担当。代表作は、『鬼滅の刃』 TVシリーズ(原画)、『ONE PIECE Film Z』(作画監督)、2020東京オリンピック公式アニメーション(原画)など。

私が担当しているのは「作画」という領域です。文字だけの脚本から初めてキャラクターを「画」として生み出したり、アニメの中で「動けるように」設計していく役割を担っています。1秒24コマの中でどんな動き方をするのか。ストーリーに合わせてどんな表情をするのか。キャラクターをデザインすることは、アニメ作品における役者そのものを創造し、演出をすることでもあるのです。

アニメはたくさんの工程を、様々なプロフェッショナルがタスキを繋いで1つの作品をつくりあげます。でも、そもそもそこで動くキャラクターがいなければすべてが始まらない。作画を担当する私たちアニメーターは、まっさらな何もないところから、キャラクターのアイデンティティをつくり、世界をつくっていくのです。

実はこの作画領域では、今もデジタル化せず手描きを大事にしているクリエイターが多くいます。その理由の1つは、「線」へのこだわりにあるでしょう。デジタルで描く線は、均一で、淡白。一方で、手描きの線は、線そのものに強弱がつけられ、ゆらぎもあり、生きているような味が出る。平面の世界にアウトラインだけでキャラクターに「命を与える」のですから、作画をする私にとって、この「線質」は最も重要なこだわりです。

でもこれは、日本人の中に昔から息づいているものだと思っています。千年以上も続く筆で文字を書く文化があり、紙の上に墨だけでイマジネーションをかき立てる画を描いていた時代もある。平面的にものを捉え、アウトラインでデフォルメして、線質でニュアンスを表現する。これは浮世絵にも見られる特徴です。日本人は昔から、「線」というものを芸術として使いこなしていたんですよね。そういう線の強弱や質感による深みのある表現は、手描きの「セル画」にも引継がれている。だから、セル画にはまだまだ大きな可能性があると感じています。

私がこのプロジェクトで挑戦したいことは、「作画」という役割から、セル画をより現代的に洗練させて「アート」にしていくこと。かつてゴッホが浮世絵の平面的な表現の中に、日本のデザインへの憧れを感じてくれたように。ジャポニズムの魅力を、アニメから、もう一度世界に発信したいんです。セル画にはそのポテンシャルがあります。私がアニメーターになった時にはもうセル画はつくられなくなっていましたが、日本アニメが進化する歴史の中でとても大きな影響を与えていた存在であったことに敬意を持っていました。だからこそ、このプロジェクトでセル画を学び、アニメーターとしてパワーアップしたいと思っています。

セル画ラボでは、新しいセル画をデザインし、新作セル画として販売していく事業も動きはじめています。私はそのための原画を描き、アートディレクションをしていきます。セル画の経験者から技術や表現を学びながら、セル画経験のないメンバーはそこに先入観のない柔軟な発想を融合させていく。アニメ業界以外の人とも繋がって、みんなで新しいジャポニズムの「アート」として育てていく。世界がもう一度憧れてくれるような、洗練されたおもしろさのあるジャパンデザインを追求していきたいと思います。